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籠太大昔話し(五)

弥太之進のお月見

 秋もふかまり弥太之進、今夜は月見ぞと徒の町を出でてお城の南湯川の土手にすすきを取りに行く。今日は十五夜なれば、背中に背負いきれないほどにススキを持ち帰る。隣り近所のばばさまたちに声をかけてのススキのおすそ分け。「たいしたものだ!」などという見え透いたお世辞にも弥太之進の上機嫌、大居張りでのお振る舞い。

 さて弥太之進、我が家に戻りしが、母上から月見団子にする粉がないとのことづて、さっきまでの元気はどこへいってしまったかのように意気消沈、今夜は月見団子にありつけらんとのことも当てがはずれてしまった。

 さて宵闇も迫り、あたりも暗くなれば背あぶり山の辺りから見事なるお月様の御登場。弥太之進、お月様にお供えする団子もなくば、南瓜を丸膳の上に置きお供えと為す。ぼんやり月を眺めていると、何故か涙が頬を流れ落ちる。

 やがて表のほうから「いるか!」と友の声、いつものことながら足軽長屋の悪弥太どもを誘い、数人にて連れ合い町外れの土塁に上る。どこからともなく持ち寄りし濁り酒、懐に入れし飯茶碗をとりだして月下の酌となす、月が冴えて酔いも回れば月夜の狼ならぬ、弥太男の放吟(謡を歌う)する声だけがが侘びしく、月夜に響き渡る。

 
     
     
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