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籠太大昔話し(四)

 初夏の頃、弥太之進は東山湯の入りの山に通う。深山幽谷にして人家もなく谷を渡る風が涼やかなこの時期、集められるだけの薪と杉の落ち葉を集める。

 さて弥太之進、大きな握り飯をつくってもらい背中に担いて、早朝より山に向かい背負えるだけの薪をあつめると楽しみは独活やワラビなどを採ることなり。山菜採りはこの時期の欠かせない日課、山は足軽どもの倅でそれは賑やかな物、向かいの山に向かいし友に大声で「おーい、帰るべやー」と山々に弥太之進の大声が響き渡る。狂歌に詠う、「湯の入りの、青木清水の旨みをば、弥太のみぞ知る」。

 下の沢にておちあいて山道を下りる。やがて天寧寺の門前茶屋の辺りにつく頃は夕暮れも迫り、手土産に両手に抱えきれないほどの、独活やワラビを持参しての孝行者の弥太之進である。

 
     
     
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