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籠太大昔話し(三)

弥太之進の春彼岸

 会津の城下に春彼岸が近づくと、長丁辺りの弥太ども(足軽の若者たち)やたらと落着きがなくなる。今で言うアルバイト先の親父に「あてにするな」と言ったかと思うともう米搗きの仕事に半月も来ない春の彼岸になると、城下に長い冬に終わりを告げるかのように、彼岸獅子がやってくる。
 城下にはいくつかの獅子団があり、それぞれの獅子団に現在のサッカーのサポーターよろしく贔屓がある。隣の嫁などは嫁ぎ先の亭主と贔屓が異なり、もう半月も口を利いていない。

 さて弥太之進「天寧の獅子団」の稽古場に毎朝早くから握り飯持参で通い詰ている。親が何を言おうが、誰が何を言おうが、もう聞く者でもなし。朝から晩まで獅子の稽古を取り囲み、身振り手振りで笛太鼓の音色に合わせ自分も踊る始末である。
 彼岸にご城下に獅子団がやってくると、頼まれもしないのに先触れを買って出る。町の辻で先触れ同士が出会うものなら、異様なる興奮にて喧嘩になる事もしばしば。本来の彼岸供養と豊作や家内安全祈願などの目的はどこへやら。
そういえば、アフリカのどこかの国でも似たようなことをしていたのをTVでみたことがある。
 ああ!人間はあまり進歩しない物だ・・。

 ご城下が御維新の前、平和だった頃の足軽のお話である。

 
     
     
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