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籠太大昔話し(二)

初市に奮闘せし、弥太の進

 さて新年も明けて弥太の進の住む長町にもお正月がきた。恒例なりし弓組みの若党による城下の社寺仏閣へ、大雪を蹴散らしての元朝詣でのはしごも終わり、翌朝からの初音売りのアルバイトも一段落、後は城下の正月10日の初市が何よりの楽しみ、10日深夜に行われる大町辻の俵引きともなれば、男弥太之進いやがおうでも意気があがる。

 いつの頃から始まりしかは定かではないが、上町、下町に分かれたのふんどしひとつの若者が大きな俵を引き合い、年のはじめに今年の吉祥を占う行事なり。

 さて、弥太の進、昼頃より友と語らい俵引きが行われるあたりの商家の屋根にはしごを架け俵引きの見物の場所を取る。屋根に交代で場所を陣取るのはいいが寒くて体を動かさずに居られない、向かいの屋根に居る輩どもといつしか雪合戦と成す。

 大声をあげての雪合戦にまともな人は、馬鹿馬鹿しくて見られたもんじゃない。
 飽きもせず夜半まで繰り返すさまは何とも致し方なし、馬鹿らしいやら、情けないやら、毎年のように繰り広げられる弥太男たちの行状に、屋根に登られた家主は毎年の事ゆえに半ば諦め顔、文句を言っても聞く輩でもなし、やがて下帯ひとつの男衆が大町の辻に置かれし大俵めがけ「わっしょい!わっしょい!」の掛け声勇ましく集まり、行司の采配よろしく俵を引き合えば、弥太男たちの興奮は絶頂と成し、屋根から転げ落ちる者まで出る始末。

 城下が御維新の前、まだ平和だった頃の足軽の男たちのなんともすさまじい、しかもユーモラスな足軽の若者たちの話である。

 
     
     
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